リンパ浮腫の治療|国立国際医療研究センター病院
メニューにジャンプコンテンツにジャンプ

トップページ > 診療科・部門 > センター > 国際リンパ浮腫センター > リンパ浮腫の治療

リンパ浮腫の治療

主症状である"むくみ"に対して、弾性着衣(リンパ浮腫専用のストッキング・スリーブなど)や包帯による圧迫療法が最も重要な治療となります。リンパ浮腫は一度発症すると、自覚症状の有無・強弱にかかわらず進行し続けます。"改善したから"といって圧迫療法を自己中断した場合は遅かれ早かれリンパ浮腫は悪化します。自覚症状が改善していても"リンパ流のうっ滞"という原因は解除されていないため、目に見えない・自覚できない間にもリンパ循環は悪化し続けリンパ浮腫は進行しています。圧迫療法は最も重要な治療法ですが、対症療法でありリンパ浮腫を治すことはできず生涯に渡り続ける必要があります

マニュアルリンパドレナージ(MLD)というリンパ浮腫用の特殊なマッサージが用いられることがあります。適切な訓練を受けたセラピストにより行われるもので、巷の“リンパマッサージ”とは全く異なるものです。リンパの解剖に基づいてうっ滞したリンパの排液を促す効果を期待するものですが、効果は一時的であり週に数回といったMLDの通院治療では持続的な効果は期待できません。弾性着衣が着用不能な重症のリンパ浮腫に対し入院の上、毎日数回行い集中的に排液して弾性着衣の着用が可能とさせる意図で行う場合は有用ですが、弾性着衣が装着可能な方が通院でMLDを受けるのは大したメリットはありません。なお、巷の"リンパマッサージ"などのリンパ浮腫用でないマッサージはリンパ浮腫を悪化させるリスクが高いため行ってはいけません。

圧迫療法を行っても効果がない、もしくは治療効果が不十分なリンパ浮腫には手術治療が行われます。過去には、リンパ浮腫により太くなった四肢の組織を切除する手術やリンパ管を静脈の中に入れる手術(古典的リンパ管静脈吻合術)が行われ、その侵襲の大きさ(体の負担の大きさ)や合併症・再発リスクの高さから、一時期は"手術治療は禁忌"と言われる時期がありました。近年、手術技術の発達から低侵襲(体の負担が小さく)で効果的な手術治療が開発され、圧迫療法抵抗性のリンパ浮腫の治療として広まりつつあります。現在、主に行われているリンパ浮腫の外科治療は、リンパ管細静脈吻合術(LVA: lymphaticovenular anastomosis)、血管柄付きリンパ節移植術(LNT: lymph node transfer)、脂肪吸引術(LS: liposuction)の3つで、それぞれに特徴があるため、ICGリンパ管造影による重症度分類をもとに適切に治療方法を選択します。

リンパ管細静脈吻合術(LVA)

もともとリンパ液は頸部で静脈に合流し心臓・腎臓を通して尿となり排出され、溜まらないようになっていますが、リンパ浮腫ではがん治療などによりリンパ流が閉塞します。LVAでは、閉塞した部位より末梢で(子宮癌術後リンパ浮腫であれば下肢で、乳がん術後リンパ浮腫であれば上肢で)リンパ管を静脈につなぎリンパ液をバイパスさせて、リンパうっ滞を解除させます。過去に行われていた古典的リンパ管静脈吻合術とは異なり、LVAでは0.5mmほどのリンパ管を同じくらいの細い静脈に0.05mm程度の針・糸を用いて、血管・リンパ管内皮(血管・リンパ管の内側を覆っている層)同士がくっつくように繋げる手術です。血管吻合の手術では内皮同士がくっつくように繋げることが重要で、古典的吻合術では"吻合"とは名ばかりでリンパ管を静脈の中に挿入する手術でした。血液が内皮でないものに接触すると凝固する(血液が固まる)ため、古典的吻合術では"吻合部"での血栓閉塞率が極めて高くバイパス効果が不安定でした。昔は0.5mmのリンパ管をつなげる技術が未熟でしたが、今では超微小血管外科(スーパーマイクロサージャリー)という0.5mm未満の血管を確実につなげる技術によりリンパ管の吻合が可能となりました。

LVAは2cm程度の皮膚切開から局所麻酔で施行可能な最も低侵襲な外科治療です。"うっ滞したリンパをバイパスにより解除する"という、原因に対する治療でもあり、早期であればリンパ浮腫を治せる(浮腫をなくし圧迫療法が不要となる)場合もあります。進行したリンパ浮腫でも、リンパうっ滞が軽減するため圧迫療法でも改善しなかった浮腫を改善したり、蜂窩織炎の頻度が減ったり、圧迫療法を軽くさせる効果が期待できます。吻合するリンパ管の数が多いほどバイパス効果が高いため、時間内に可能な限り多くの吻合を行います。重症のリンパ浮腫ではリンパ管硬化がおこるため(リンパ管が傷み、リンパ管内を流れるリンパ液がなくなっていく)LVAによる治療効果が不十分なことがあり、追加のLVAもしくは後述のLNTやLSなどの治療が必要となることがあります。

LVAでは非常に高度の技術および経験が必要となりますが、当院ではLVAの経験が豊富で(6,000本以上のリンパ管を吻合)、海外でのLVAの公開手術やLVAに関する論文発表・講演を多数行っている形成外科医(スタッフ紹介参照)が執刀します。状態に応じて 1泊2日-2泊3日 の入院手術もしくは日帰り外来手術となります。弾性着衣が不能な重症例では保存療法を周術期に併用するため 1-2 週間の入院となることがあります。LVAの技術を学びに国内外より医師が見学・実習・修練にくることがありますが、ご理解・ご協力をお願いしております。

圧迫療法抵抗性のリンパ浮腫に対するLVA

(静脈にリンパ液が流れて透明になっている。術後、浮腫が改善し体重が7kg減少)

  • 001.jpg
  • 002.jpg
  • 003.jpg

血管柄付きリンパ節・リンパ管移植術(LNT)

前述の通り、進行した重症リンパ浮腫ではリンパ管硬化のためLVAでは効果が不十分となります。LVAが効果的でない場合のリンパうっ滞を改善する方法としてLNTがあります。LNTでは健常な部位からリンパ節・リンパ管とそれらを栄養する血管を採取し、リンパ浮腫の患部で血管吻合をして移植します。移植された部位でリンパ節が生着すると、周囲の組織から新生リンパ管を介してリンパ液を吸収するようになります。移植されたリンパ節に吸収されたリンパ液は、リンパ節のなかで静脈に合流して循環していきます。健常なリンパ節・リンパ管を用いるため、リンパ管硬化の強い進行した重症例でも効果が期待できる治療法です(必ずしも全例に効果があるわけではありません)。乳癌術後で乳房欠損もある方の場合、自家組織移植(深下腹壁動脈穿通枝皮弁など)による乳房再建と同時に移植することも可能です。

鼠径部・側胸部・鎖骨上部・顎下部・足背部などからリンパ節・リンパ管を栄養血管と共に採取し、患肢で血管吻合・リンパ管吻合を行い移植します。通常は全身麻酔下に行いますが、病態と状況によって局所麻酔で行うことも可能です。病状・手術内容によりますが、通常 2泊3日-6泊7日 の入院手術となります(病状により入院が長引く可能性があります)。LVAによる治療効果が少ない進行例でも効果が期待できる治療法ですが、その治療効果は通常術後1年以上経過してからでないとあらわれず(多くは術後1年半以降に徐々に効果が増強していきます)、LVAと異なりLNTの採取部の犠牲を伴い侵襲が大きいのが難点です。LNTでは採取部にリンパ浮腫をきたす可能性がありますが(海外報告では 20-30% 程度)、当院ではLNTの経験が豊富で採取部のリンパ浮腫をきたしたことのない医師が執刀します(LNT 200例以上で採取部リンパ浮腫 0例、スタッフ紹介参照)。

スーパーマイクロサージャリーの技術を用いた選択的遊離穿通枝リンパ節弁移植術

(ICGリンパ管造影を用いた術中ナビゲーションにより上肢からのリンパ流・リンパ節を温存して側胸部よりリンパ節を採取し移植)

  • 004.jpg
  • 005.jpg
  • 006.jpg
  • 007.jpg

脂肪吸引術(LS)

リンパ浮腫では進行していくと脂肪が沈着するため、仮にLVA・LNTなどの治療でリンパ液の貯留が改善したとしても、沈着した脂肪はとれないため患肢のサイズが元通りにはなりません。サイズを減少させるために脂肪を除去する必要がありますが、現在ではLSによる除去が行われております。LSの場合、LVA・LNTと異なり術直後からサイズが減少しますが、脂肪とともにリンパ管も吸引され破壊されるためリンパ循環は悪化します。そのため、LS術後には強固な圧迫療法が生涯に渡り不可欠で、圧迫療法を中断・軽減した場合には100%悪化することが明らかになっています(LVAやLNTでリンパ循環が改善している場合は圧迫療法が軽減可能なこともあります)。LS開発者の医師は高度進行例にのみ施行することを推奨しており、リンパ機能が残存している例ではLSを行っておりません。最近は美容外科などでもリンパ浮腫に対するLSを行っておりますが、リンパシンチグラフィやICGリンパ管造影などのリンパ機能の評価なしには施行すべきではない治療法のため注意が必要です("完治"と宣伝しているクリニックもありますが、強固な圧迫療法が不可欠で完治とは程遠い状態です)。LVAやLNTでリンパ循環が改善した状態で、残存リンパ管・機能を傷害しないよう注意することが、より良い生活環境(圧迫療法を軽減しながらサイズも減少させる)には重要と考えられます。